山口家庭裁判所岩国支部 昭和52年(家)31号 審判 1977年11月04日
本籍・住所 山口県
申立人 片岡千恵(仮名)
国籍 アメりカ合衆国
住所 不明
相手方 ドナルド・スタンレー・オーエンス(仮名)
本籍・住所 申立人に同じ
事件本人 ドナルド・スタンレー・ジユニア(仮名)
主文
申立人を相手方と申立人との間の子である事件本人ドナルド・スタンレー・ジユニアの親権者に指定する。
理由
一 本件申立の要旨は次のとおりである。
(一) 日本国籍を有する申立人は昭和三四年二月頃○○市○町の○○洋服店の店員として稼働中、客として来店した当時米国軍人であつた相手方と知り合い昭和三六年二月頃から○○市内において同棲生活をするに至つた。
(二) 申立人は昭和三七年四月二〇日事件本人を出産し、同年五月四日相手方は事件本人を認知し、当事者は同年八月二二日婚姻をした。
(三) 昭和三八年一一月二二日相手方は米国本土勤務となり米国へ帰国し申立人らも米国に渡航の手続をしたところ、申立人が肺結核であることでその許可がないため申立人は事件本人を連れ日本に滞在し療養生活をした。
(四) 相手方は、申立人が同居しないという理由で米国ノースカロライナ州○○郡郡高等裁判所へ離婚の訴をなし、昭和四三年二月一三日離婚の判決があつた。
(五) 昭和五〇年一月一三日申立人は上記判決による離婚届をなしたが判決に事件本人の監護者の指定がない。事件本人の親権者を定める必要があるが相手方の所在が判明しないので協議が出来ないのでその指定を求めると言うにある。
二 申立人が主張する事実については、本件添付の戸籍謄本、ノースカロライナ州○○郡郡高等裁判所が西暦一九六八年二月一三日審判した当事者間の離婚審判書謄本写、昭和五二年三月二八日付家庭裁判所調査官柳征則の親権者の指定事件調査報告書によつてこれを認めることができる。
三 ところで本件に適用されるべき準拠法について検討すると、本件はアメリカ合衆国ノースカロライナ州○○郡郡高等裁判所において当事者間の離婚の審判がなされその離婚が確定したが子の監護の定めがない。
子の親権者を定めるについての準拠法は、法例第二〇条の親子の法律関係に関するものと解する。
法例第二〇条によれば親子間の法律関係については、父の本国法によるべきとされている。父の住所はノースカロライナ州と認められるのでノースカロライナ州法を準拠法とする。
ノースカロライナ州法によると、申立を受けた裁判所の裁判官は児童の利益及び福祉を最善に促進すると認める個人、代理人、団体又は施設に対し斯る児童の監護権を与えなければならぬ旨規定する。
四 前記調査官の調査報告書によれば次の事実が認められる。
即ち相手方は当事者が離婚後事件本人の生活費として昭和四九年六月までは月額五〇ドルを送金して来ていたが、その後は送金なく子に対する愛情、養育する熱意がなく現在では音信もなく所在も判明しない。
申立人は事件本人とその姉の三人が同居しホステスとして稼働し事件本人の実姉(異父姉妹)の収入と合せて安定した生活を送つていること。
事件本人は幼少にして相手方と離別した関係もあつて父親についての記憶は全然なく愛情も感ぜず、親子の親和感がない。
現在では中学校三年として勉学をしているが、学校内外において混血児である異和感なくその生活を送つている。
以上の事実が認められる。
よつて、ノースカロライナ州法を適用し子の福祉と利益を最善に促進するものと認める子の母である申立人を事件本人の親権者に指定することとし主文のとおり審判する。
(家事審判官 英一法)